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大分地方裁判所 昭和59年(ワ)593号 判決 1985年6月27日

原告

伊東京子

被告

森口孝行

主文

被告は原告に対し、金八四三万四九四四円及び内金七六八万四九四四円に対する昭和五八年一〇月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三四一九万四六一八円及び内金三二六九万四六一八円に対する昭和五八年一〇月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 被告は、昭和五八年一〇月六日午前一時ころ、大分市末広町二丁目先大道陸橋(北側)手前交差点において、小型貨物自動車(以下「本件車」という)を運転して進行中、前方注視義務を怠つて右陸橋左側に設置された信号機柱に衝突した。

(二) 原告は、本件車の助手席に同乗中のところ、右事故によつて頭部打撲、左顔面裂傷の傷害を負つた。

2  責任

(一) 不法行為責任

被告は、酒酔い又は酒気帯び運転のうえ、前方注視義務を怠つて本件事故を惹起した過失がある。

(二) 自賠法三条責任

被告は、本件車を自己の運行の用に供していたものである。

3  損害

(一) 被告は、右負傷により永富脳神経外科病院に九日間入院し、昭和五八年一〇月一五日から昭和五九年二月一六日までの間の三日間通院し、更に昭和五八年一二月三日から同月二四日までの八日間、大分中央外科病院に通院し、それぞれ治療を受けた。

(二) 損害額は次のとおりである。

イ 治療費(原告負担分) 金三五万六一二一円

ロ 入院雑費 金七二〇〇円

一日八〇〇円の割合

ハ 休業損害 金九万七五〇〇円

被告は、本件事故当時大分市内のスナツク従業員として勤務し、日給六五〇〇円を得ていたが、本件事故による頭痛及び治療のために昭和五八年一〇月六日から同月二〇日までの一五日間休業した。

ニ 後遺症による逸失利益 金二一九三万三七九七円

原告は、事故による顔面瘢痕及び神経性けいれんのため、昭和五八年一〇月二一日勤め先のスナツクを失職し、同年一二月三日及び七日の二回右の顔面瘢痕治療のため形成手術を受けたが、術後も顔面に著しい醜状及び神経性けいれんを残し、スナツク従業員としての稼働は不可能となつた。

原告の右障害の症状は昭和五八年一〇月二〇日に固定し、その程度は後遺症障害等級第七級に相当し、その労働能力喪失率は五六パーセントである。また原告の収入については昭和五六年賃金センサスの年令別平均給与額表の女子労働者二九才の平均給与額を昭和五八年にスライドさせた月額金一九万三五〇〇円により、その稼働可能年数三八年、ライプニツツ方式により計算して、次のとおりとなる。

一九万三五〇〇円×一二ケ月×〇・五六×一六・八六八=二一九三万三七九七円

ホ 傷害に伴う慰藉料 金三〇万円

ヘ 後遺症による慰藉料 金一〇〇〇万円

ト 弁護士費用 金一五〇万円

4  よつて、原告は被告に対し、本件不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害額合計金三四一九万四六一八円及び内金三二六九万四六一八円に対する本件不法行為の日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3のうち(二)のイ、ロは認め、同3のその余の部分は不知ないし争う。

三  被告の主張

原告は、本件事故前日の午後九時ころ、被告を呼び出し、本件事故直前まで共に飲酒し、そのうえ被告が飲酒していることを十分知りながら、被告運転の本件車に同乗したものであるから、当然原告にも過失があつて、相殺されるべきである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1及び2の各事実については当事者間に争いがない。

二  負傷状況、治療及び後遺症について

成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第七号証の一、二、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、本件衝突の際のフロントガラス破損によるガラス破片を左顔面に受け、左眉、左眼、口腔内及び口唇上部、左頬骨、顎、鼻等を切損し、事故当日直ちに永富脳神経外科病院に入院し、同日から昭和五八年一〇月一四日までの九日間入院加療を受け、退院後翌年二月一六日までの間に三日間通院加療を受けた。しかし右は切創等の治療のみで、左顔面部分の右切創による痕跡により著しい醜状を残したままであつた。

2  そこで、原告は、右切創痕等を修復形成するため、昭和五八年一二月三日から同月二四日までの間の内の八日間、大分中央外科病院に通院し、形成手術(二回)の治療を受けた。

3  しかし、原告の左顎部分その他左顔面数ケ所にはなお切創痕や手術痕を残して醜状を程し、また寒期や曇天時等天候如何によつては、頭痛を生じたり形成手術跡が顔面から浮く感じとなつて疼痛を生じ、また神経性けいれんを生じたり、言語障害や化粧に支障を生ずるなどの障害が残存している。

4  原告は、永富病院退院後二日目に従前のスナツクに再度勤め出したが、顔面の醜状等のため辞職を勧告され、一週間後に右スナツクを辞職し、その後数ケ所の就職先を当つたがいずれも断わられ、一年余経過した昭和六〇年三月からスーパーシヨツプにパートとして勤務し、月額六万余円の収入を得ている。

以上の事実が認められ、右事実に照らせば、原告の右後遺障害は、大分中央外科病院で治療を終えた昭和五八年一二月二四日にはその症状が固定したものと認められ、その後遺障害の程度は、女性の顔面に醜状及び神経症状を残していることその他諸般の事情を考慮するとき、後遺障害別等級表(自賠法施行令二条)の第一一級に相当し、その労働能力喪失率は二〇パーセントと認めるのが相当である。

三  損害額について

1  治療費三五万六一二一円及び入院雑費七二〇〇円については、当事者間に争いがない。

2  休業損害

前記認定事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、スナツク従業員として勤務し、日額金六五〇〇円の給与を得ていたところ、本件事故により、事故当日から昭和五八年一〇月二〇日までの一五日間勤務先を休業したことが認められるから、原告に生じた右の期間の休業損害額は金九万七五〇〇円となる。

3  逸失利益

原告の収入を昭和五八年賃金センサス女子労働者年令別産業計、企業規模計、学歴計平均給与額表の二九才欄によつて年合計二三二万〇三〇〇円(月平均一九万三三五八円)によることとし、その稼働可能年数三八年(六七才-二九才)、ライプニツツ方式により、かつ労働能力喪失率を前認定の二〇パーセントとして計算すると、次のとおり金七八二万七六七一円となる。

二三二万〇三〇〇円×〇・二×一六・八六七八=七八二万七六七一円

4  慰藉料

前認定の事実に照らし、本件事故による原告の傷害による慰藉料を金三〇万円、後遺障害によるそれを金二三九万円と認める。

5  損害合計額金一〇九七万八四九二円

四  過失相殺について

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故の二ケ月前に原告勤め先のスナツクで知り合つて個人的にも交際するようになり、本件事故の前日は休日だつたので、同日午後七時過ぎころ、被告を勤務先に電話して誘い出し、本件車に同乗して被告の知人方へ行つて被告共々飲酒したり、更に飲食街でスナツク等三軒を廻つて飲酒するなどし、被告がかなり酩酊している状態であつたのに、自宅に送つてもらうため被告運転の本件車に同乗したものであること、他方、原告は、最後に送つてもらう際、被告にタクシーで帰ることにしようと勧めたが、被告が「大丈夫だ、しつかりしている」というし、見た目にもさほど酔つてる風にもみえず、足もとも話しかたも一応確かのようだつたので同乗することになつたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右事実に照らすと、原告にも被告の飲酒運転に加担したことや典型的な好意同乗であること等の事情が存するので、これを考慮するとき、前項5の金額の三〇パーセントを減額するのが相当である。

以上によれば被告は原告に対し、右金七六八万四九四四円の損害賠償義務を負う。

五  弁護士費用

前項に認定の損害賠償額及び弁論の全趣旨に照らせば、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求める弁護士費用は、金七五万円と認めるのが相当である。

六  以上によれば、原告が被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得る額は、金八四三万四九四四円となる。

よつて、原告の被告に対する本訴請求のうち、金八四三万四九四四円及び弁護士費用を除いた金七六八万四九四四円に対する本件不法行為の日である昭和五八年一〇月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の遅延損害金を求める範囲で理由ありとして認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用については民訴法八九条、九二条によりこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とし、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川本隆)

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